一人親方とは、建設業などで施主や建設会社から個人で仕事を請け負う働き方を指します。
一般的に「一人親方」とは親方と呼ばれる事業主から独立し職人として雇われたり、施主と直接請負契約をする独立事業者です。
国土交通省が実施した調査によると、一人親方の推計人数は約51万人とされており、建設技能者の内訳では15.6%と会社員に次いで2番目に人数が多いことがわかりました。
引用:国土交通省|第1回 建設業の一人親方問題に関する検討会
今回は一人親方の労災保険の選び方や、選ぶ際の注意点などを解説します。
関連記事:建設業で独立・起業・開業する方法は?必要な資金や手続き・独立後の年収を解説
一人親方の労災保険とは
個人事業主や自営業者は、一般的には労災保険には加入できません。
労災保険は、本来であれば雇われている労働者を対象としており、個人事業主や自営業者などは対象から外れるからです。
しかし、建設業の一人親方などの危険を伴う仕事をしている場合、労災保険に特別加入できます。
一人親方団体労災センター共済会公式YouTube:一人親方労災保険の特別加入
一般的な労災保険と特別加入での労災保険には、以下のような違いがあります。
一般的な労災保険 | 特別加入の労災保険 | |
---|---|---|
対象者 | 雇われている労働者 | 危険を伴う仕事をする個人事業主や自営業者 |
加入方法 | 自動的に加入(強制加入) | 自分で申し込む(加入は任意) |
支払い | 会社が支払う | 自分で支払う |
保証範囲 | 仕事中や通勤中の怪我や病気 |

一人親方の労災保険とは
- 一人親方特別加入制度の対象者
- 一人親方労災保険の補償内容
- 一人親方の労災保険にかかる費用
- 一人親方労災保険と民間傷害保険の違い
一人親方特別加入制度の対象者
以下の事業をする一人親方などであれば、労災保険に特別加入できます。
労災保険の特別加入の対象
- 自動車を使用した旅客もしくは貨物の運送業
- 建設業
- 漁業
- 林業
- 医薬品の配置販売業
- 再生利用を目的とした廃棄物などの収集・運搬・選別・解体業
- 船員法に規定する船員が行う事業
- 柔道整復師の事業
- 高齢者が新たに開始する事業
- あん摩マッサージ指圧師、はり師、きゅう師の事業
- 歯科技工士の事業
- 特定フリーランス事業
引用:厚生労働省 特別加入制度のしおり
労働者を使用する場合でも、日数が年間100日未満であれば、一人親方として労災保険に特別加入できます。
業務中のケガや事故に備えるためにも、自分の働き方が特別加入の対象かどうかをしっかり確認し、万が一に備えておくことが大切です。
一人親方労災保険の補償内容
一人親方労災保険は業務中の事故や疾病などに対し、幅広い補償を提供しています。
補償内容は以下の通りです。
補償内容
- 療養補償:業務上の負傷や疾病の治療費
- 休業補償:療養のため働けない期間の所得補償
- 傷病補償年金:療養開始後1年6ヶ月を経過しても治らず傷病等級に該当する場合の補償
- 障害補償年金:傷病が治った後に身体に障害が残った際の補償(障害等級1級~7級)
- 傷害補償一時金:傷病が治った後に身体に障害が残った際の補償(障害等級8級~14級)
- 介護保障:障害年金または障害年金受給者のうち等級が1級または2級の方の補償
- 遺族補償年金:業務上の死亡に対する遺族への補償
- 遺族補償一時金:死亡した方に遺族補償年金を受け取る遺族がいない際の補償
- 葬祭料:死亡した方の葬祭をおこなう際の補償
補償によっては、加入時に選択した給付基礎日額が影響する場合もあります。
一人親方の労災保険にかかる費用
一人親方の労災保険にかかる費用は、給付基礎日額と保険料率によって決まります。
給付基礎日額 | 労災保険で支払われる補償金を計算するもととなる、1日あたりの基準金額 3,500円〜25,000円の16段階から選択可能 |
---|---|
保険料率 | 国で決められた労災保険を計算するための割合 業種ごとに異なり、労災のリスクが高い仕事ほど、保険料率が高くなる 建設業で働く一人親方の保険料率は1.7% |
労災保険にかかる費用の計算方法は以下の通りです。
労災保険料=給付基礎日額(3,500円〜25,000円)×365(日)×保険料率(建設業で働く一人親方の場合は0.017)
また、給付基礎日額別に支給される金額例は下記の通りです。
治療費 | 休業補償 休業1日分 |
障害年金 7級の場合 |
葬祭費用 | 遺族年金 遺族1名の場合 |
||
---|---|---|---|---|---|---|
給付基礎日額 | 3,500円 | 無料 | 2,800円 | 458,500円 | 420,000円 | 533,500円 |
5,000円 | 4,000円 | 655,000円 | 465,000円 | 765,000円 | ||
7,000円 | 5,600円 | 917,000円 | 525,000円 | 1,071,000円 | ||
10,000円 | 8,000円 | 1,310,000円 | 615,000円 | 1,530,000円 |
なお、一人親方が労災保険に特別加入する際には、以下のような初期費用が発生します。
必要な初期費用
- 加入手数料:1,000円〜5,000円程度(一部協会では入会金を設定していない)
- 健康診断料:3,000円~10,000円程度
- 書類製作費:1,000円~3,000円程度
労災保険の費用は決して安くはありませんが、万が一の怪我や事故に備えるためにも大切です。
将来のリスクに備えるためにも、労災保険位かかる費用をしっかりと理解しておきましょう。
一人親方労災保険と民間傷害保険の違い
一人親方労災保険は国がおこなっている保険であり、一人親方やその家族従業員が利用できる特別な保険制度です。
民間の傷害保険は様々な事故によるケガが対象であり、業務外の日常生活の中で怪我をした場合も適用されます。
各保険の違いは下記の通りです。
一人親方労災保険 | 民間傷害保険 | |
---|---|---|
補償金額 | 医師が完治と認めるまで、全額補償 | 掛け金に応じて、定額で支払われることが多い(契約プラン次第で補償は異なる) |
治療期間 | 完治するまで、治療にかかった期間の全てをカバー | 入院や通院に対して保険金は出るが、支払い日数に上限がある場合が多い |
治療後の補償 | 治療後の後遺症や死亡に対して、手厚い補償が受けられる | 治療後の後遺症や死亡に対しての補償は契約内容次第で、必ずしも充実しているわけではない |
一人親方の場合は、一人親方労災に加入したうえで余裕があった場合に民間傷害保険に加入することをおすすめします。
一人親方労災保険を選ぶおすすめポイント
一人親方労災保険を選ぶ場合、特別加入団体の組合費や特徴、給付日額の種類を確認しましょう。
組合費が高い場合、継続的な利用が難しくなる恐れもあるため確認することは大切です。
以降では、一人親方が労災保険を選ぶ際のおすすめポイントを解説します。
一人親方労災保険を選ぶおすすめポイント
- 組合費の安さ
- 給付基礎日額の種類
- 支払い方法の種類
- 加入にかかる時間
- 契約の更新条件
- 申込手続きの手軽さ
組合費の安さ
労災保険に加入する際には、組合費の安い団体に加入するのがおすすめです。
労災保険に加入すると、以下のような費用がかかります。
労災保険に加入する際に必要な費用
- 労災保険料
- 加入先の団体に支払う組合費
労災保険料は全国一律であり、年間の保険料は保険料算定基礎額にそれぞれの事業に定められた保険料率を乗じたものとなっています。
引用:厚生労働省|一人親方等の特別加入
労災保険料は、どの団体に加入しても、金額は同じになります。
しかし、組合費は加入する団体によって異なります。
例えば一人親方労災保険組合の場合、労災保険料と月額500円の組合費で加入が可能です。
引用:一人親方労災保険組合|費用について
加入する際には、検討している特別加入団体の組合費を必ず確認しましょう。
給付基礎日額の種類
自分の状況に応じた給付基礎日額を選ぶようにしましょう。
給付基礎日額を選ぶ際には、以下のポイントを踏まえて検討してください。
給付基礎日額を選ぶポイント
- 自分の1日の収入に合わせて、収入を補填できる金額を選ぶ
- 長期で休んだ際の生活費をシミュレーションして選ぶ
- 家族がいる方や住宅ローンなどがある方は高めにする
- 無理なく払える保険料を選ぶ
給付基礎日額が高すぎると保険料の支払いがきつく、低すぎるといざという時の補償が心許なくなります。
将来の万が一に備えて、今の自分にぴったりな金額をしっかりと選びましょう。
支払い方法の種類
保険料や組合費の支払い方法は、特別加入団体により異なります。
保険料や組合費の主な支払い方法は、以下の通りです。
保険料や組合費の主な支払い方法
- 銀行振替
- 口座引き落とし
- クレジットカード払い
- コンビニ払い
労災保険の支払いの回数は、年払いか、月払いかを選択できる場合が多いです。
保険料の支払い方法や回数は、組合によって違います。
自分が希望する支払い方法がある組合を選ぶようにしましょう。
加入にかかる時間
特別加入団体により、加入にかかる期間は異なります。
加入申し込み翌日から保険加入ができる特別加入団体や、加入まで数日要する場合もあるため、加入にかかる時間も確認が必要です。
今すぐ加入したい場合は、即日発行してもらえる団体への加入をおすすめします。
契約の更新条件
加入した特別加入団体の契約更新条件も、加入後に確認しましょう。
自動更新が可能かや更新時に保険料が大幅に上がる可能性はないかなど、事前に把握する音が大切です。
特別加入団体は長期的な利用となるケースが多いため、保険料の増額が少なく継続しやすいなど、長期的な視点で安い保険を選びましょう。
申込手続きの手軽さ
特別加入団体の申し込み手続きの手段は団体によって異なり、近年ではオンラインで加入手続きができる団体や契約管理ができる保険も増えています。
オンラインで完結する場合、仕事が忙しくても実際に赴く必要がないため、手軽に加入手続きができます。
また、遠方に住んでいる方でも手軽に利用しやすくなっています。
なお、保険内容の変更や契約更新がオンラインでできるかも、加入前に確認しましょう。
一人親方が労災保険を選ぶときの注意点
一人親方が労災保険を選ぶ際には、いくつかの注意点を意識する必要があります。
費用を抑えるためコストのみを重視した選び方や、契約条件・免責事項の確認をしないのは非常に危険なため、必ず避けましょう。
以降では、一人親方が労災保険を選ぶ際の注意点を解説します。
一人親方が労災保険を選ぶときの注意点
- コストのみを重視しない
- 契約条件や免責事項もチェックする
- 保険料の変動可能性を考慮し選ぶ
関連記事:建設業の独立開業でよくある失敗例は?原因・対策、失敗しない独立手順も解説
コストのみを重視しない
保険料の安さのみで労災保険を選ぶのは避けましょう。
コスト以外にも重視すべきポイント
- 団体の実績や評判
- 相談窓口などでのサポート体制
- 加入手続きのスムーズさ
- 特典や優待などの付帯サービス
- 健康診断が必要か否か
安心して仕事に取り組めるように、内容をよく見極めて、自分に合った団体を選択しましょう。
契約条件や免責事項もチェックする
契約条件や免責事項の事前確認も大切です。
契約条件や免責事項を確認する場合は、下記の点に注意を払いましょう。
契約条件・免責事項の確認ポイント
- 保険の適用範囲(作業内容や場所の制限)
- 免責期間の有無と長さ
- 年齢制限や健康状態による制限
- 保険料請求時に必要な書類や手続きの複雑さ
上記項目を確認することで、作業時に発生するトラブルを防ぐことが可能です。
保険料の変動可能性を考慮し選ぶ
労災保険によっては、初年度が安くても翌年以降の保険料が大幅に上昇する恐れがあります。
長期的な利用を検討している方は、下記の点を確認し保険を選びましょう。
保険料の変動時の確認ポイント
- 保険料の改訂頻度と基準
- 過去の保険料推移
- 年齢や業務内容の変更に伴う保険料変動
- 無事故割引や長期契約割引の有無
上記情報を基に今後必要となる保険料負担を予測し、安定した利用ができる保険を選ぶことが大切です。
一人親方の労災保険の加入方法
一人親方の労災保険には加入資格や加入方法があります。
以降では、一人親方の労災保険の加入資格と加入方法を解説します。
一人親方の労災保険の加入方法
- 加入資格を確認する
- 加入手続きの流れ
加入資格を確認する
一人親方の労災保険に加入する前には、加入資格の有無を確認しましょう。
一般的に、上記の条件を満たす必要があります。
1つでも満たせない場合、労災保険に加入できない恐れもあるため注意しましょう。
加入手続きの流れ
労災保険の加入手続きをおこなう場合、まず特別加入団体への加入が必須です。
加入手続きの流れは下記の通りです。
加入手続きの流れ
1.特別加入団体の選択
自身の業種や条件に合った特別加入団体を選択
2.申込書の提出
選んだ特別加入団体に対し、申込書を提出
3.保険料の支払い
申込者の提出と保険料を支払う
4.加入証明書の受け取り
加入団体により、必要書類や手続きが異なるケースもある
一人親方の労災保険は業務中の事故で十分な補償を受けるために重要であり、満足のいく補償を受けるためには適切な加入手続きをおこなう必要があります。
加入手続きの際に不明点がある場合は、専門家や建設業専門求人サイト「GATEN職」に相談するに相談しましょう。
一人親方は忘れずに労災保険の手続きをしよう!
今回は一人親方の労災保険について解説しました。
一人親方は、従業員を雇わず個人で仕事を請け負う働き方である個人事業主です。
一人親方の場合、労災保険に特別加入しなければ補償を受けられません。
労災保険を適用するには特別加入団体への加入が求められるため、忘れず手続きしましょう。
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