「毎日毎日残業つづきで、もうヘトヘト……」
「毎月のように残業が40時間超えだけど、違法じゃないの?」
「こんなに残業しているのに残業代が少ない気がする」
この記事では、
- 残業の平均時間はどれくらい?
- そもそも長時間残業って違法じゃないの?
- 残業代の未払いがあるときはどうすればいい?
を解説していきます。
須田美貴 (左)
特定社会保険労務士。産業カウンセラー。転職経験の多さを活かして、転職の相談、カウンセリングも含めて、労働者側の社労士として相談を受けている。
黒田英雄 (右)
特定社会保険労務士。ラジオパーソナリティ。かつては労基署・労働局の相談員を受任、労働者側の社労士として数多くの労働トラブルを解決に導いている。
労働相談須田黒田事務所
残業の平均時間はどれくらい?
まずは、厚生労働省が調査を行っている「毎月勤労統計調査 令和2年分結果確報」から、残業時間の平均をみてみましょう。
厚生労働省のデータでは平均残業時間は9.0時間
厚生労働省が行う毎月勤労統計調査では、全就業形態の平均残業時間は『9.0時間』という結果となりました。
出典:厚生労働省「毎月勤労統計調査 令和2年分結果確報-第2表 月間実労働時間及び出勤日数 」
このデータだけを見ると、意外と平均残業時間って短い…?と感じる方が多いかもしれません。
ここで注意しておきたいのは、正社員もパートタイム労働者もすべて平均した数値であるということです。
パートさんには、残業は発生しないという会社がおそらく多いですよね。
ただ、平均9.0時間ということであれば、ここまで長時間残業が問題にはならないでしょう。
そこで、民間企業が調査を行った残業時間のデータも、併せて見てみましょう。
民間企業が行った調査の残業時間の平均は?
今回は、企業のクチコミをリサーチしている「OpenWork」が、同サイトに投稿された6万8000件の社員クチコミから残業時間の平均を調査した結果を参考にします。
企業からのデータではなく、労働者からのクチコミによるものであるため、より実態に沿っているかもしれません。
- 0時間 4.0%
- 3時間 1.7%
- 5時間 2.1%
- 10時間 7.2%
- 20時間 13.0%
- 30時間 14.5%
- 40時間 13.7%
- 50時間 10.0%
- 60時間 8.7%
- 70時間 3.6%
- 80時間 6.9%
- 90時間 1.6%
- 100時間以上 12.9%
全体の平均残業時間は約47時間
上記のデータを全体的に平均すると、1ヶ月あたりの残業時間は「約47時間」となります。
ボリュームゾーンとしては20時間~40時間の方が多く、合計で41.2%です。
一方で、50時間以上の残業をしている方も43.7%と半数近くにのぼっています。
月40時間の残業をすると平日の自由時間はあまりない
月の残業時間が40時間だったとすると、1ヶ月の出勤日数が20日の月では、1日あたりの残業時間は2時間になります。
定時が18時までだとすると、残業をして仕事が終わるのは20時。
帰宅するのは、だいぶ遅い時間になります。
個人差はありますが、24時前後には寝ないと翌日の仕事に差し支えますから、夕食やお風呂の時間を除くと自由時間はあまり残りません。
通勤時間が長い方や、家事もしなければならない方なら、自分の自由時間はほとんどないでしょう。
そもそも長時間残業って違法じゃないの?
「何時から働いて、休憩は何時から何時までで、終わりの時間は何時」というのは、会社のルール(就業規則)であったり、会社と労働者の個別の契約(雇用契約)で定められています。
この時間のことを「所定労働時間」と言い、これを超えて働くことを一般的に「残業」と言っています。
所定労働時間とは別に、法律で定められた労働時間のことを「法定労働時間」と言います。
法定労働時間を超える労働のことを、法律上では「時間外労働」と言います。
労働基準法第32条では「1日8時間、1週40時間を超えて労働させてはならない」と定められています。
つまり、法で定められた時間=法定労働時間を超えて働かせることは、法違反ということになります。
※ちなみに、一般的に言う「残業」と、法律上の「時間外労働」は違うことがあります。
ここでは分かりやすく、所定労働時間が法定労働時間と同じ1日8時間×週5日勤務(週40時間)と考えてみましょう。この場合は「残業」=「時間外労働」となります。
1日8時間を超えて働いているという方は、たくさんいらっしゃいますよね?
実は、ある手続きを取れば罰則を免除されるということが認められているのです。
会社と従業員との間で労使協定を結べば、この法定労働時間を超えて労働させることができると労働基準法第36条で定められています。
いわゆる「36(サブロク)協定」と呼ばれるもので、この協定を締結することで会社は従業員に時間外労働をさせることができるのです。
36協定による時間外労働の上限は原則として月45時間
ただし、36協定さえ結べば、従業員に無制限に時間外労働させてよいというわけではありません。
36協定があっても時間外労働には上限が定められており、原則として「月45時間」「年360時間」とされています。
つまり、月の時間外労働を45時間以内に抑えながら、年間としても360時間を超えることができません。
「変形労働時間制」を導入している会社も
業種によっては繁忙・閑散期があり、1年や1か月の中で特定の時期だけ時間外労働が発生するという場合もあります。
そこで取り入れられるのが「変形労働時間制」です。労働時間が月や年などを通じて平均して週40時間以内になるように、あらかじめ予定を組む働き方です。
1年単位の変形労働時間制を導入した場合は、時間外労働の上限
以前は、時間外労働の上限が法律上には規定されていませんでした。
しかし「働き方改革」によって、時間外労働・休日労働の時間の上限が労働基準法に明記されました。
大企業には2019年4月から、中小企業に対しても2020年4月から適用されています。
違反をすれば、罰則も規定されています。
36協定が有効と認められる要件
36協定が有効と認められるための要件は、労働基準法第36条に定められています。
- 労働者の過半数で構成された労働組合がある場合はその労働組合と会社が合意すること
- 労働者の過半数で構成された労働組合がない場合は労働者の過半数を代表する人と会社が合意すること
- 合意内容を書面にすること
- その書面を厚生労働省令の定めに従って労働基準監督署に届け出ること
36協定を結んでいても法違反があることも
サービス残業をさせられている場合
36協定が適切に結ばれていて、時間外労働の上限以内の残業であっても、残業代(法律上では「割増賃金」と言います)が正しく支払われていない場合は法違反の可能性があります。
時間外労働が罰則付きで規制されると、見かけ上は上限を守っているようにしながら、いわゆるサービス残業がこれまで以上に増える危険性もあります。
働いた分の残業代がきちんと支払われているかどうか、よく確認をしましょう。
「うちの会社はサービス残業はない」と思っている方も、実は残業代が正しく支払われていない可能性があります。
具体的には、以下の点を確認しましょう。
業務に関連する行為
会社の指揮命令下に置かれている時間は、すべて労働時間に該当します。
しかし、実際には業務の準備などをしている時間に対して、お給料が支払われていないことがあったりします。
以下のような「業務に関連する行為」を労働時間外に行っている場合は、会社はその分のお給料を支払わなければならない可能性があります。
POINT
- 制服や作業服への着替え
- 事業前の朝礼や体操
- 掃除や開店準備、後片付け
- 休憩時間中の電話や来客への対応
- 飲食店での仕込み、トラック運転手の荷待ちなど
- 警備員などの仮眠
- 会社の指示で参加する研修
持ち帰り仕事
勤務時間内では処理しきれない業務量を与えられているため、家に仕事を持ち帰っているという方もいるかもしれません。
このような場合は、家で仕事をした時間も労働時間として認められる可能性があります。
固定残業代制度が正しく使われていないことも
会社によっては、一定時間分の時間外労働・休日労働・深夜労働の割増賃金を固定額で支払っていることがあります。
名称は問いませんが、一般的には「固定残業代」と呼ばれています。
固定残業代を導入するには、以下の3点を就業規則などに定めることが要件とされています。
POINT
- 固定残業代の額を、基本給とは別に明記すること
- 固定残業代が何時間分の割増賃金なのか明記すること
- 上記2の時間を超えた場合には、追加で割増賃金を支払うと明記すること
残業代を固定金額で支給する場合は、就業規則などに基本給と残業代を明確に記載して従業員に周知しなければなりません。
その場合、「○時間分の残業代として△万円」というように、みなし残業時間と残業代の金額も明確に記載する必要があります。
「基本給は1ヶ月あたり30万円とする(固定残業代を含む)」と記載してあるだけでは基本給と残業代が明確になっていません。
この場合は、支給されたお給料とは別に、さらに残業代が発生する可能性もあります。
実際の残業時間がみなし残業時間よりも長い
固定残業代制度では、実際に残業した時間がみなし残業時間より短くても、固定金額で残業代を支払わなければなりません。
例えば、40時間分の残業代として6万円が支払われると決まっている場合は、実際には20時間しか残業しなかった場合でも、会社には全額支払い義務があります。
実際の残業時間がみなし残業時間を超えた場合には、会社はその超えた分の残業代を支払わなければりません。
会社から「残業代は固定で支払われている」と言われても、何時間残業しても同じ額しかもらえないというわけではありません。
残業代の未払いがあるときはどうすればいい?
サービス残業があることがわかったら、どうすればいいのでしょうか?
未払い分の残業代は、会社に対して支払いを請求することができます。
支払期限を切って請求しても払われない場合は、公的機関や専門家を頼ることになります。
労働基準監督署に申告する
労働基準監督署は、管轄地域内にある会社が労働基準法などの法令をきちんと守っているか監督する機関です。
残業代の未払いは労働基準法違反になるので、労働基準監督署に相談しましょう。
タイムカードや業務日報、給与明細などの資料を持参して相談すると、法違反の可能性があるかどうかを確認してもらえます。
労働基準法では、労働者が会社の法違反を労働基準監督署に通報する「申告」が規定されています。
申告を受けた労働基準監督署が会社を調査した結果、法違反が確認されると会社に対して是正勧告が出されます。
この是正勧告によって残業代が支払われれば、問題はそこで解決です。
消滅時効に注意
残業代の請求権は時効によって「5年(当分の間は3年)」で消滅します。
ただし、2020年4月以降に発生した分からが3年であり、そ
つまり、現段階で遡って請求できる未払い残業代は、2年前のものまでということです。
退職後でも請求は可能ですが、時間が経過するごとに請求できる未払い残業代が減ってしまいます。
法律の専門家である弁護士に依頼して、残業代の請求を代理でおこなってもらうことも方法のひとつです。