現在、残業代がきちんと払われているのかどうか気になっていませんか?
残業代が正当に支払われていないと感じる人は、おおよその残業代を計算してみましょう。
残業代は以下の計算式で求められます。
「残業代=時給×1.25倍×残業時間」
しかしながら、企業によって残業の考え方や賃金の割増率が異なるため、人それぞれ残業代が大きく変わります。
そこで今回は、残業代の計算方法や、企業ごとによる残業のとらえ方の違いなど、残業代を計算する上で必要な情報をまとめていきます。
残業代を計算する方法
残業代は以下の計算式で求められます。
「残業代=時給×1.25倍×残業時間」
仮に残業をした場合、通常の賃金に25%上乗せされた割増賃金が発生します。
たとえば、残業時間が月20時間、1時間あたりの賃金が1,500円の人の場合、残業代の計算式は以下のとおりです。
「1,500円×1.25倍×20時間=37,500円」
この場合、残業代として基本給から37,500円が足される計算となります。
ただし、残業の時間帯や条件によっては25%の割増率が異なるので注意が必要です。
また、時給がいくらかわからない人は、基本給を逆算して1時間あたりの給与を求める必要があります。
以下では、その詳細について解説していきます。
自分の給料を時給換算する
月給制の人など、自分の1時間あたりの給料がわからない人は、まずは1時間当たりの給与を算出しましょう。
時給は以下の計算式で求められます。
「1時間あたりの給与 = 基本給 ÷(1日の所定労働時間×月間の労働日数)」
たとえば、会社員Aさんの定時が8時〜17時(実働8時間)、月間の労働日数が22日、基本給が28万円(手取り23万円前後と仮定)の場合、1時間あたりの給与は以下のとおりです。
「28万円 ÷(8時間×22日)= 1,590円」
つまり、Aさんの給与は時給換算で1,590円となります。
ただし、手当は基本給に含まれないため、月給に手当が含まれている場合は手当分を差し引いた基本給で計算してなくてはなりません。
給与から時給を算出する際、基本給として含めない手当には以下のものがあります。
- 家族手当
- 扶養手当
- 通勤手当
- 住宅手当
など
たとえば、通勤手当を20,000円、家族手当を15,000円受け取っている場合、給与を時給換算する際は合計35,000円差し引いて計算する必要があります。
労働時間は1分単位で計算される
労働時間は1分単位で計算されなければいけません。
端数を切り上げることは認められますが、切り捨てることは不可能です。
たとえば、終業時間でタイムカードを切る時間が定時から5分過ぎていた場合、5分の賃金が発生します。
労働時間は月単位で合計されることがほとんどで、終業時間を5分過ぎて退社した日数が仮に月6日あれば、その月の残業時間は30分となります。
ただし、労働時間を1ヶ月で通算した場合にのみ、端数の30分未満を切り捨て、30分以上を1時間に切り上げて計算することは可能です。
つまり、労働時間は毎日1分単位で計算されますが、1ヶ月で通算した時に労働時間の端数が30分未満だった場合は切り捨てることができます。
残業や休日出勤の割増賃金
残業および休日出勤における、賃金割増率は以下のとおりです。
残業代の正式な呼び名は「法定時間外労働」で、その割増率は25%あるいは50%です。
通常は1日8時間を超える部分、また1週40時間を超える労働時間に対しては、25%の割増賃金が適用されます。
ただし、残業時間が月60時間を超える部分に対しては割増率が50%となります。
一方、残業には深夜労働や休日出勤などもあり、22時〜翌5時の時間帯は深夜労働の25%が、法定休日の労働に関しては35%の割増賃金が適用されます。
また、それぞれの残業はかけ合わされ、たとえば「法定時間外労働かつ深夜労働」の場合は50%、「法定休日の労働かつ深夜労働」の場合は60%の割増率です。
ただし、休日出勤と法定時間ががかけ合わされることはないので注意が必要です。
仮に休日出勤の労働時間が8時間を超えた場合でも、休日出勤の割増率だけが適用され35%となります。
以下では、法定内休日の出勤について深掘りしていきます。
法定内休日の出勤について
休日には2種類あり、その内容は以下のとおりです。
- 「法定休日」:1週1日、4週4日の休日
- 「所定休日」:会社が就業規則で定めた休日
労働基準法において法定休日は1週1日、4週4日と定められており、さらに労働時間は原則1日8時間、週40時間とされています。
1日の実働が8時間の企業の場合、計算上5日間しか働かせることができないため、1週間のうち2日の休日が設けられていることが一般的です。
その週2日の休みのうち、1日は法定休日、もう1日は所定休日となります。
なお、休日労働において35%の割増賃金が発生するのは法定休日の労働のみで、所定休日の労働では休日出勤による割増賃金を支払う義務はありません。
ただし、その週の労働時間が40時間を超えていれば、法定時間外労働として25%の割増率が発生します。
とはいえ、所定休日の労働に対しても35%の賃金割増を適用している企業もあります。
そのため、残業代および休日労働に関する割増賃金を確認したい方は、就業規則等を一度チェックしておきましょう。
2種類の残業
残業には以下の2種類があります。
- 「法定時間外労働」:1日8時間、1週40時間を超える範囲
- 「法定時間内労働」:会社が定めた所定労働時間を超える範囲
法定時間は原則で1日8時間、1週40時間とされており、法定時間を超えての労働を一般的に「残業」と呼び、正式には「法定時間外労働」と呼びます。
法定時間外労働の割増率は25%ですが、週60時間を超える範囲に関しては割増率が50%となります。
一方で、1日8時間以内の労働であっても、会社が定めた所定労働時間を超える残業を「法定時間内労働」と呼び、その割増率は会社によって異なります。
たとえば、会社が1日の所定労働時間を7時間としている場合、7時間を超える部分が法定時間内労働です。
仮に法定時間内労働の割増率を25%としている場合、8時間働いた日があれば、その日は1時間分25%の割増賃金が発生します。
なお、1週間は日曜日〜土曜日の遍歴で定められていることが一般的です。
割増賃金の支払い義務について
割増賃金の支払い義務が発生するのは、上記の「法定時間外労働」のみです。
法定時間内労働の場合、企業が割増賃金を定めていない限り支払い義務が発生しません。
とはいえ、所定労働時間を過ぎた場合には割増賃金を適用している企業がほとんどなので、法定時間内労働でも割増賃金が発生する可能性は高いです。
なお、法定時間内労働の割増賃金については、労働契約書・就業規則または賃金規定や退職規定などで確認できます。
また、使用者つまり経営者側は、就業規則等を従業員に周知させる義務があるため、従業員は就業規則や労働契約書の開示を申し出れば見せてもらえます。
中小企業は割増率の猶予が認められている
法定時間外労働において、中小企業は割増率の猶予が認められています。
具体的には、通常1ヶ月の時間外労働が60時間を超える範囲については、50%の割増率が適用されますが、中小企業の場合は25%のままです。
なお、中小企業に該当するのは以下のいずれかに当てはまる企業です。
小売業 | 資本金が5000万円以下、あるいは常時使用する労働者が50人以下 |
---|---|
サービス業 | 資本金が5000万円以下、あるいは常時使用する労働者が100人以下 |
卸売業 | 資本金が1億円以下、または常時使用する労働者が100人以下 |
その他 | 資本金が3億円以下、または常時使用する労働者が300人以下 |
このように、中小企業かどうかは資本金もしくは常時使用する労働者の数で決められます。
ただし、中小企業の割増率の猶予措置も2023年3月までです。
2023年4月から中小企業の猶予措置が終了し、どの企業においても60時間を超える時間外労働については割増賃金率50%が適用されることとなります。
残業時間のシミュレーション
続いて、残業時間を具体的に計算してみましょう。
たとえば、以下の条件の時の残業時間を計算してみます。
- 所定労働時間8時〜17時
- 休憩1時間
- 週休2日制
- 月曜日と水曜日に2時間残業
- 土曜日に8時〜14時まで出勤
このとき、法定時間外労働は合計9時間で、9時間分の賃金が25%割増されます。
また週休2日制の場合、そのうち1日は所定休日のため休日労働の割増率が適用されない点に注意が必要です。
上記の例の場合、土曜日の出勤は週40時間を超える法定時間外労働に該当するため、割増率は25%となります。
残業代を計算する時のポイント</h2’>
残業代を計算する時は以下のポイントに注意しましょう。
- 基本給の時給換算する
- 残業の種類と時間を整理
- 割増率を確認
残業代を計算するためには、1時間あたりの給与を知っておかなければいけません。
月給制の人などは、基本給を時給換算しましょう。
また残業にはいくつか種類があり、法定時間外労働や法定時間内労働、そして深夜労働や休日出勤なども割増賃金が発生します。
これら残業の種類を仕分け、それぞれの時間と割増率を確認しておきましょう。
なお、割増賃金はかけ合わさることがあり、深夜労働かつ法定時間外労働の場合は50%に、法定休日の労働かつ深夜労働の場合は60%になる点にも注意が必要です。
残業として認められないケース
通常は残業代が発生する条件でも、残業として認められないケースがあります。
それは、遅刻による時間の繰り下げです。
法定時間外の労働は実稼働ベースで計算されるため、遅刻によって稼働していない時間があればその時間は実稼働としてカウントされません。
たとえば、就業時間が8時〜17時(休憩1時間)で、1時間遅刻して始業開始が9時だった場合、17時までの労働時間は休憩の1時間を除いて7時間となります。
法定時間外労働が適用される条件は1日8時間を超える範囲の労働時間なので、仮にその日18時まで働いたとしても残業代は発生しません。
有給休暇や早退による残業時間の変化
同様に、有給休暇や早退が理由で残業として認められないケースがあります。
有給休暇や早退は実稼働に含まれないため、それらを取得した週の労働時間が40時間に満たない場合、仮に所定休日に出勤したとしても割増賃金が発生しません。
たとえば、平日8時間労働を週5日行えば1週間の法定労働時間の40時間を満たしますが、仮にその週に有給休暇を取得した場合、1週間の労働時間が32時間となります。
つまり、有給休暇を取得した週は所定休日に出勤しても、休日出勤手当および残業代は発生しないことを理解しておきましょう。
みなし労働時間制の残業代
みなし労働時間制とは、事前に決めた時間働いたとみなす勤務体系のことです。
たとえば、1日の労働時間を8時間と設定した場合には、1日の労働時間が10時間の日も6時間の日も8時間の労働としてみなされます。
みなし労働時間制では、たとえ1日8時間、週40時間以上の労働をしても残業代は発生しません。
ただし、みなし労働時間制で設定した時間が1日8時間、1週40時間を超えている場合には残業代が発生します。
つまり、みなし労働時間制において、仮に1週間の労働時間を合計45時間と設定した場合、1週間の実稼働時間が40時間に満たなくても、5時間分は残業したこととなります。
このように、みなし労働時間制は一般的な残業の考え方が通用しないため注意が必要です。
とはいえ、企業がみなし労働時間制を導入するためには厳しいルールがあり、みなし労働時間制が正式に認められていない場合は未払い残業代の請求が可能です。
変形労働時間制の残業代
一般的な残業代とは異なる考え方として、変形労働時間制があります。
変形労働時間制とは、所定の労働時間を月単位あるいは年単位で清算する制度のことです。
1日単位の労働時間では清算されないため、たとえば月の所定労働時間を160時間とした場合、1日にどれだけ働いても月の労働時間が160時間未満なら残業代は発生しません。
また、変形労働時間制においても法定労働時間の上限があり、上限は以下の式によって求められます。
「変形労働時間制の上限=40時間×清算期間の日数÷7」
たとえば、清算期間を1ヶ月(31日で計算)とした場合、1ヶ月間内の労働時間の上限は177.1時間となります。
つまり、変形労働時間制において設定できる所定労働時間は月177.1時間内(31日ある月の場合)とされ、労働時間が177.1時間を超えた部分は残業代が発生します。
このように、短時間で働く時と長時間働く時がある場合には、変形労働時間制が有効ですが、残業代の考え方は一般的なものと異なる点に注意が必要です。
フレックスタイム制の残業代
フレックスタイム制も一般的な残業代の考え方とは異なります。
フレックスタイム制とは、労働者が出退勤の時刻を決められる制度のことです。
出退勤の時刻を決められるとはいえ、フレックスタイム制にも所定労働時間の上限があり、それを超えての労働は残業代が発生します。
フレックスタイム制の所定労働時間の上限は、上記の変形労働時間制と同様に以下の式で求められます。
「フレックスタイム制の上限=40時間×清算期間の日数÷7」
31日ある月の所定労働時間の上限は177.1時間なので、フレックスタイム制でも1ヶ月の総労働時間が177.1時間を超えれば、その分の労働は残業です。
なお、フレックスタイム制および変形労働時間制における賃金の割増率は通常25%です。
残業代の計算にオススメの無料ツール3選
残業代の計算をする際に、以下のツールの利用をオススメします。
- 残業時間計算ツール「keisan」
- 残業代計算ソフト「給与第一」
- 残業代計算ソフト「給料ふえる君」
中でも「だいたいの残業代がわかればいい」という人は、WEB上で簡単に計算できる「keisan」を利用しましょう。
ここからは、それぞれのツールの特徴について簡単に紹介していきます。
keisan
keisanはCASIOが提供する残業代計算ツールです。
以下の残業時間を入力することで、残業代を簡易的に計算できます。
- 時間外労働
- 時間外労働+深夜労働
- 法定休日労働
- 法定休日労働+深夜労働
残業時間が60時間を超えた時の割増賃金も計算できるため、時給および残業時間さえわかっていれば、正確な残業代を知ることができます。
残業代について計算したい方は、ダウンロードやインストール不要で無料で利用できるkeisanの利用がオススメです。
給与第一
給与第一は、京都第一法律事務所が開発した残業代計算ソフトです。
エクセルシートで残業代を計算する仕組みで、ソフトのダウンロードが必要な上に細かな入力が必要なので、やや手間がかかる点がデメリットです。
とはいえ、給与第一は裁判所でも活用されており、作成したシートはそのまま訴訟資料としても利用できます。
そのため、会社へ残業代を請求したい場合には給与第一がオススメです。
給料ふえる君
給料ふえる君は、沖縄県労働組合総連合が開発した、残業代を計算できるソフトです。
給与第一と同様、エクセルシートをダウンロードして利用するため、手間がかかる点がデメリットです。
しかしながら、業種別に計算ができたり、4週6休制等の特殊な労働環境にも対応していたりなど、WEBツールのkeisanと比べるとより正確な残業代を計算することができます。
残業時間の管理にオススメのアプリ2選
残業時間を管理したい時は以下2つの無料アプリがオススメです。
- 残業証明アプリ(iPhoneのみ対応)
- タイムカード(Androidのみ対応)
ここからは、それぞれのアプリについて簡単に紹介していきます。
残業証明アプリ
残業証明アプリは、日々の残業時間を記録するiPhone専用の残業管理アプリです。
GPS機能を活用した記録法が特徴で、勤務地で在席していた証明とその在席時間を自動記録してくれます。
弁護士の監修によって開発されており、法的証拠としても利用できるアプリなため、残業証明アプリを利用するだけで残業時間の管理から残業代の請求まですべて行えます。
残業管理を正確に行いたいなら残業証明アプリを利用しましょう。
タイムカード
タイムカードは、日々の出退勤時間を記録できるAndroid専用の勤怠管理アプリです。
職場を出勤・退勤する際に、アプリを開いてワンタップで記録できる簡易性が特徴的です。
時給を設定すればウィジェットで当月の給料額が確認できたり、残業代を確認できたりなど、自己管理のためのアプリとして利用できます。
割増賃金についても細かく設定できるため、正確な残業時間や残業代を記録するのならタイムカードを利用しましょう。
正確な残業代の計算は相談窓口で
正確な残業代の計算をしたい人や、自力算出に不安がある人は相談窓口を利用しましょう。
残業代の相談先には以下のものがあります。
- 全労連労働問題ホットライン
- 労働基準監督署
- 総合労働相談コーナー
- 社会保険労務士
- 弁護士
など
これらの相談先では、残業代の計算や残業代請求の相談のほか、パワハラや不当なサービス残業など、労働問題にまつわるあらゆることの相談が可能です。
なお、残業代の計算をする際は給与明細や労働条件を記した書類、タイムカードなど、労働に関わる証明となるものは事前に用意しておきましょう。
持参するものがわからない人や、簡単な質問をしたい人などは、各相談先へ電話で確認してみることをオススメします。
まとめ
残業代の計算式は以下のとおりです。
「残業代=時給×1.25倍×残業時間」
残業代を算出するためには、1時間あたりの賃金と残業の種類とその割増率、および残業時間をきちんと把握する必要があります。
また、変形労働時間制やフレックスタイム制といった、不規則な労働時間の企業では残業時間のとらえ方に注意しなければいけません。
企業によって所定労働時間や賃金の割増率は異なるので、就業規則や労働契約書等であらかじめ確認しておくことをオススメします。
なお、正確な残業代を計算する場合や、残業について悩みがある場合は、労働基準監督署をはじめとした相談窓口へ連絡しましょう。